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62日目 転院数日後

  • 私は今朝5:00頃起床。昨夜は10:00頃就寝。久しぶりのPCへのハンズオンである。

  • 私の体調はと言うとまずまず。体重は64㎏、体脂肪率17.0%。昨夜飲み過ぎたかもしれない程度か。

  • 月曜日以降ずっと寝不足で、PCに向かうことが出来なかった。体調的にPCに向かうべきでは無いような気がしていた。

  • 血糖値スパイクかもと思っていたことが、また起きていた。朝から何も口にしていない日、奈津子の昼ご飯をデリバリーした際に、病棟の待合で足のしびれを覚えた。これはまずいと思い、病院の売店でドトールのカフェラテを購入し、すぐさま飲んで症状改善を図った。

  • 奈津子は5:10起床。昨夜は21:30就寝。0:00にトイレに起きて1:00頃再度就寝した。質はともかく、寝不足ではない。表情も悪くないので睡眠自体は良好そうだ。

  • 奈津子は、3日前の木曜日に転院していた。転院には私も立ち会った。新しい病院へは奈津子の愛車で向かった。

  • 新しい病院は、山間部の谷あいにある。周囲は山々に囲まれ、緑が濃い。空気も綺麗で交通量も少ない。静かで穏やかな場所に立地している。

  • 奈津子の生活する病室付近も比較的新しい設備で、ゆったりとリハビリ生活を送れそうだ。

  • 新しい病院の主治医は女性の脳神経内科医。豪放磊落という言葉がしっくりくる印象を受けた。奈津子と対面した時、大きな声で「よく頑張ったね」と声をかけてくれた。奈津子の回復ぶりに驚嘆していたのかもしれない。小泉純一郎が貴乃花に「痛みに耐えてよく頑張った。感動した。」と声をかけている様を少し髣髴とさせた。

  • 面談では、3か月目、4か月目の伸びしろに期待してリハビリにあたること。ひとまず一ヶ月後の7月20日のカンファレンスで、今後の方針を確認することを説明された。この主治医、高齢の女性であるが独りの職業人として奈津子に親身になってくれるのかもしれない。私はそう期待した。

  • 奈津子は結局この転院まで、ずっと寝不足気味であった。病院スタッフとの別れが不安だったのだろう。奈津子の社会的、直接的な人との繋がりはこの2か月、病院にしか無かった。それを失う際の虚無感は私にも少し理解できる。ぽっかりと胸に穴が空くような感じだ。だが決してそれは決定的なものではない。私やポポ、父母兄弟、友人等との繋がりは続くし、病院スタッフの一部ともLINEなどを介し交流出来たりする。そして新しい病院での人間関係も新たに構築していくことになる。

  • 現に奈津子は、転院後、前の病院で処方されていた睡眠薬を半量飲むことで、良く寝られるようになった。新しい病院では、丁度半量の錠剤が処方してもらえ、噛み砕かなくてもよくなったそうだ。

  • 奈津子は転院の数日前から五月雨的に別かれの挨拶をしていたが、私がLINEで話す時、よく目元を赤くして泣いていたのが分かった。「最近、涙もろくなったかも」と奈津子は言う。ベッドから離脱しベッド周り以外のことが考えられるようになった頃、「この人、人が変わった?」と思うようなしゃべり方をする奈津子を私は数回確認している。少し感情的な物言いをする、以前の奈津子と明らかに違うしゃべり方だった。だが、それがずっと続いていた訳ではない。一方、以前のように捌けたものの言い方はしなくなっている。例えば、お酒を飲み過ぎた私を窘めるような時に発していた強めの言い方だ。もっともこれは現在の状況下、私に非があるように感じるシチュエーションが無いから発動していないだけかもしれない。

  • 以前も書いたが、右脳と左脳は相互を抑制しあっている。左脳を損傷した奈津子は、右脳が比較的支配的になる。つまり右脳優位の性格になっているのかもしれない。現状、右が優位で、その程度は時系列で変化していると考えられる。

  • 右脳と左脳の働きについては、その違いについて色々な書き方で説明されている。

  • 「左脳は意識脳で言語で操作される頭。言葉で考え、言葉で記憶し、言葉で情報を伝える。一方、右脳は無意識脳で、イメージで考え、イメージで記憶し、イメージで情報を伝える。」

  • 「左脳は言語や計算力、論理的思考を司る脳。記憶にも関係しているが、主に言語や数的処理を司る脳なので、記憶脳力は右脳に比べると劣っている。右脳はイメージ力や記憶力、想像力やひらめきを司る脳。視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚の五感に関係し、感情をコントロールしている。音や色の違いを認識したり、物事に感動したりするのも右脳の働きによるもの。」

  • 一般的に、脳梗塞などで大脳に損傷を受けた場合、全体バランスがとれる右脳が優位な左脳損傷のほうが予後が良いと言われている。右脳がしっかりと機能回復に向けた意思をイメージし、細かな理屈がなくても信念でリハビリを貫き通す。自己否定感を否定できる脳であるとも言える。

  • 雑駁に言うと「理屈っぽくて極端」なのが左脳、「感覚的で誠実」なのが右脳なのだと思う。これを私と奈津子の関係に置き換えると、私は左脳で奈津子は右脳なのかと私は思っている。そして、こんな話をすると「智則さんはまた難しいことを言う」と奈津子に言われる。

  • 主治医は面談の際、高次脳機能障害のことに触れ、現在確認されていない障害が潜んでいる可能性を示唆していた。その障害の程度をどう捉えるのかによるが、現状、多分以前の奈津子と違っている部分はあるのだ。論理理解や記憶、注意力のパフォーマンスが少し悪いような気がしている。それが例えば仕事に復帰した時に致命的な障壁となるのかどうか分からない。少しだけ心配している。

  • だが、これも今のところ考えたり工夫したりする余地はあまりなく、運動機能回復にひとまず全力を尽くすことで、左脳機能回復を図ることが、左右脳の抑制力均衡化に繋がり、脳機能全体の底上げになる。そこに腐心したほうがいいと私は考えている。

  • この先、つまずいたり壁にぶち当たることもあるかもしれない。その時にどうしたらいいのかはその時に考える。それまでは、奈津子も私も最善手を選び、前に進んで行くしかない。ひとまずのリミットが1か月後と2か月後。解離の状況も正直不透明。不安な点を挙げればきりが無いが、今しか出来ないことに全力で取り組む必要がある。この時間を後に後悔するような無駄な使い方は出来ない。

  • 先週の月曜に少し時間を巻き戻す。私はその前の水曜日から装具を一から作り直していた。金曜日くらいから寝不足状態が続いていて、月曜日は大詰め。マジックテープの装着方法や革の使い方を詰めていた。設計図も何もない。フリーハンドで頭の中で考えた構造を再現する。不慣れな作業なので、手順を間違えないよう注意しながら作業していた。

  • 私の狙いは、奈津子に左右両足に同じサイズの靴を履かせることと、なるべく足底の高さを左右同じにすることだった。柔軟性もなく、褒められた装具ではないが、ふにゃふにゃしている材質の大きな汎用装具ありきで屋上屋を重ねるようなカスタマイズが施されているヘナチョコ装具と大きな靴のセットより、ましに思えた。

  • 朝、弁当を届けた際、病棟の看護師長が「色々と迷惑をかけてしまいました」と、声をかけてくれた。頭の中で「色々?」と考えながら、持ち物への記名について少し話をした。病院で遺憾の意を伝えても、捻じ曲げられたりすることが多いので、謝意を受けたこと自体、ありがたいことだと思った。下着やタオルなどの記名については、IDタグを手首につけるか否かの確認の際に「記名されていない持ち物については紛失しても構わない」という同意を取っておけば、いいだけのことなのだ。多分「色々と」といわれたのは、私が思考停止した若い看護師に気付きを与えるような疑問をいくつか投げかけた事も含まれているのかと思った。暇なオジサンのお節介なので、そこはどうでもいいかなと思った。

  • 火曜日のお昼ごろに何とか装具は完成。夕刻、面談形式で奈津子と同席し、病状説明を受けた。最新の診断画像では、脳梗塞の形状が以前と比較すると一回り小さく見えた。以前の画像では脳浮腫などの影響があって大きく見えていた可能性があるということだった。脳血管の状況を比較すると、梗塞箇所の周辺の血管が見えづらくなっている。少し不安になった。コロナ渦であり機能回復を急いでいるところで、現状、叶わないが、この病院の1.5テスラのMRIより能力の高い、3テスラ以上の装置がある病院で、いずれMRA等を撮ってもらい、血管の状況を詳細に確認したいと考えている。主治医には以前から診断画像のデータを希望していたが、この日、A4の紙に出力したものを提供してもらった。なぜ電子データではないのかと尋ねたら「難しい」と言われた。普通はメディア代と手数料負担で提供してもらえる物だとは思うが、面倒なので出す気がないのか、恣意的に出したくないのか、いずれかなのだろう。いざとなったら情報公開請求でもすれば手には入るのかとは思う。それから、退院時に装着するという前提で、作成した装具を見てもらった。主治医の了承も取り付けたので、翌日は転院の準備でもするかと気楽に考えていた。

  • 水曜日、奈津子の昼ご飯を作ろうとして準備していた時、奈津子から電話があった。理学療法士が、私の作った装具に養生テープで何やら細工をする必要があるという話だった。勝手に作って、主治医の了承とればいいと言っていた経緯が経緯なので、「なんでそういうことになるの」と奈津子に問いかけた。奈津子は「明日退院するときに、いい状態で装具を履きたいから。その方がいいと思って。」と泣きながら懇願した。私は、直接細工されるととんでもないことになるような気がした。「やるんだったら、何をどうしたらいいのかこっちで聞いてやるよ。でも、昼ご飯作ることを放棄することになるよ。それでもいいの。そこまでしてやることなの。」と尋ねた。奈津子はそれを望んだ。奈津子は必要な調整の内容を分かっていない。これ以上、奈津子を責めても仕方ないので、昼ご飯を作るのを止めて病院へ出向いた。理学療法士は結局1時間以上、リハビリ室の外で私を待たせて、出入りしながら、断続的に説明した。私は怒りに駆られていることもあり、こちらが何か言い出すと収集が付かなくなるので黙って聞いていた。途中でこの理学療法士が「めんどくさい系女子」だと分かり、スマホでその特性を調べた。「承認要求が高く、過程はどうでもいい女性」。なるほどそれで経緯がどうでもよかったり、装具の作りがああなのかと、妙に納得した。最後に「転院後、一週間で装具は作ってもらえます」と、どや顔で偉そうに言う理学療法士。「じゃなんで、あんたは、その一週間で作ってやれなかったんだ。あんたには三週間以上、その時間があっただろう。」と、内心憤りを感じた。家に帰り奈津子にこう言った。「言うとおりにやったら、足底が高くなるし、靴の中が狭くなるよ。履き辛くなる。作業するのが外になるし、今日は気温も上がっている。体調も万全じゃないけど、それでもやった方がいいの。おれの体も心配して欲しいんだけど」。また、奈津子は泣きながら懇願した。仕方がないので、断腸の思いでその改悪作業を実行した。

  • 木曜日は転院の日。私は病院を出発する30分ほど前から、数回に分けて荷物を車に運んだ。病棟に戻ると、奈津子は待合に出て、涙を流しながら看護師と別れを惜しんでいた。リハビリのスタッフとも記念撮影し、病棟のエレベーターで多くのスタッフに見送られながら、病院を後にした。ちなみに主治医は忙しいのか、姿を表さなかった。

  • 意外にも、奈津子はエレベーターホールで泣かなかった。私は最後に「皆さんお世話になりました、ありがとうございました」と言ってエレベーターに乗った。「そんなことない」と看護師に声をかけられたような気がする。ただ、奈津子と私のわがままに付き合って、毎日、弁当の受け渡しをしてもらったことについては、本当にありがたく思っている。本来しなくていい仕事を、忙しい中してもらったのだ。

  • 転院先の面談後、リハビリが早速あり、奈津子は色々と体調や状況を確認されたようだ。

  • 金曜日、リハビリを受けている途中で、急遽中止となった。理由は、転院元のリハビリ室のスタッフから感染者が出たということだった。奈津子も接触・感染しているかもしれないということで、PCR検査で陰性確認出来るまで、リハビリを中止し、個室内で待機することになった。トイレ付きの個室なので、生活的にお風呂が無いこと以外は問題ないのだが、やはり、肝心のリハビリが出来ないのは残念でしかなかった。金曜日にPCR検査をして陰性だったが、月曜日に2回目の検査をして陰性が確認できるまで、我慢の時を過ごすことになった。

  • 土日は、個室内で出来る、簡単な自主トレをした。階段昇降的なことが出来ないので、踏み台を購入して差し入れたが「使わないように」と看護師に言われたようだ。

  • 私自身も前の病院の理学療法士と水曜日に対面していた。互いにマスクはしていたが、判明している感染者が、どのスタッフかは分からなかったので、不安に思い、無料PCR検査を金曜日に予約して今日検査を受けた。結果は陰性だった。初めてのPCR検査だった。ひとまず安堵するが、こんな検査結果も数日経てば何の意味も無くなるのか、と思うと少し虚しい気がした。

  • 日曜日の今日、奈津子が暇を持て余していたので、病室の窓越しに車を止めて、電話で少し話をした。家のぬいぐるみ「ハムちゃん」を連れて行った。ハムとは入院以来初めての再会だったので、奈津子は大変喜んでいた。

  • 弁当の差し入れも、「もし奈津子が感染していたら」ということで、陰性が確定するまで、容器の返却は受けず、個室内で奈津子が洗浄・保管することになった。「使い捨て容器でお願いします」と言われたが、使っている容器も安価なものなので「何なら捨ててもらっても構いません」と言って、いつも使っている容器で差し入れていた。

  • 転院早々、自主トレメインのスタートとなってしまった。モチベーションの維持や筋肉痛のケアなど、不安面もあったが、何とか日曜日までやってきた奈津子。「暇で仕方ない」とぼやいていたが、思ったよりは元気そうにしていた。







​4合炊いたご飯を、奈津子の一食分に小分け。14.5個になった。冷凍し、その都度、解凍する。 






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奈津子の朝昼晩ご飯







 

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